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受賞の曽我和也さん、平野雄大さん。
https://www.sozeishiryokan.or.jp/
曽我 和也 稿「移転価格税制における新しい紛争予防手段であるICAP(International Compliance Assurance Program)に関する研究―ICAPの実効性について国外関連取引を中心として―」
平野 雄大 稿「所得税における重加算税の研究-隠蔽又は仮装行為の類型化-」

外資企業を経て、現在は税理士事務所にて勤務。

東京国税局を経て、本研究課に入学。修了後、現在は税理士法人にて勤務。
この度は、おめでとうございます。二人の論文ともに、とても素晴らしい出来でした。
ありがとうございます。受賞発表前に読み返しては、なかなかよく書けたのではないか?と自惚れておりましたが、まさか本当に受賞できるとは思っておらず、驚きました。今回の結果は、大城先生の指導と妻子の忍耐と協力のおかげです。
大城先生をはじめとする先生方、アドバイスをくださった先輩方、一緒に研究に取り組んだゼミの仲間など、多くの方のご支援とご協力のおかげもあって受賞に至りました。ありがとうございました。

まずは今回の受賞の感想をお願いします。
憧れていた租税資料館賞でしたので、通知を見たときは静かに噛みしめるように嬉しさがこみ上げました。
税法研究論文として名誉ある賞を受賞することができ、大変光栄に思います。
今回受賞した論文のテーマとその内容を簡単に説明してください。
私のテーマは、法人税の移転価格税制(Transfer Pricing、以下TPという)における国際的二重課税を予防・防止するための新しい制度である、国際的コンプライアンス保証プログラム(International Compliance Assurance Program、以下ICAPという)という制度を取り上げました。
TPが適用された場合、課税額が高額になることから、訴訟期間が長期化する傾向があります。この問題を解消する制度として事前確認(Advanced Price Agreement、以下APAという)が運用されています。しかし、APAも課題が多くあります。
そこでAPAを補完する制度として、ICAPを積極活用することで、TPの根本的な問題がある以上、その問題をどのように埋め合わせられるのか、また目指せるのかという方向性を踏まえ、その運用上の問題について論じた内容になっています。
私は、重加算税の類型化をテーマに論文を執筆しました。国税通則法第68条は重加算税の賦課要件を抽象的に定めていることから、納税者のどのような行動が同条文の「隠蔽又は仮装行為」に該当するかに関して、従来から争いが絶えない論点とされてきました。そこで、重加算税の賦課要件の具体化及び明確化ができないのかと問題意識を持って、多くの裁判例及び裁決事例を精査し、その類型化を試みた内容になっています。
このテーマに決めたのはなぜですか。また、きっかけは何でしたか。
私は入学以前からTPをテーマに決めていました。前職は米系多国籍企業の税務職員でした。本社主導の下、各国税務責任者がエシックスには反しないで税務コストを最小化させるタックスプランニングを構築していくダイナミズムにある種の感動を覚えました。その際の一番の焦点がTPでした。
TPの中でもICAPを選んだきっかけは大城先生からの助言です。TPの論文を読み漁りましたが、自分の中で書きたいテーマが見つからなかった折に、先生からICAPを紹介していただきました。私には納税者と課税当局が協調して税務問題に取り組むという制度が興味深く、掘り下げたいと心が決まりました。
私は、国税調査官として調査事務の従事した経験がありますが、加算税の賦課決定に苦慮した経緯から、重加算税をテーマに据えました。特に問題となるのは、納税者の積極的な隠蔽仮装行為がない場合の重加算税の賦課決定です。最高裁平成7年4月28日判決は、納税者のその意図を外部からもうかがい得る特段の行動(以下、「特段の行動」という)があれば重加算税の賦課要件を満たすと判示し、これを受けて以降の裁判例も納税者の特段の行動を認定する形で審理されています。同最高裁判決から約30年が経過し、裁判例の積み重ねが期待される今、納税者のどのような行為が特段の行動と認定されるかについて、多くの事例を検証する意義があると考え、本テーマに決めました。

論文をどのように書き進めていきましたか。
初期は書く前の分析が中心でした。特に、過去の租税資料賞を受賞した論文のテーマや講評は1年時の春には分析しました。続いて訴訟事例の整理です。その後は、演習での報告スケジュールによって書き進めました。
特に大事にしていたこととして、先生から出された宿題を解いていくことだと思います。指導の内容は細かく、かつ高度。難しい宿題を解いていく過程でその奥深さや難しさ、面白さを覚え、広く深く学んでいきました。ゼミ仲間とその問題について答え合わせをするのもとても大切な時間でした。その内容について、ゼミ報告を通して解決していくこと、その積み重ねがとても大事でした。
私も曽我さんと同じです。テーマ選定後は、先行研究を収集して基礎知識の習得に努めました。次に、論文構成として大まかな章立てを決める作業を行いました。最後に、最終締め切り日から逆算して各章ごとの執筆計画を立て、それに沿う形で書き進めました。
お二人は社会人であり、1.5年生のコースですが、その中で(書き上げるのに)苦労した点を教えてください。
1.5年制の難しさは、単位取得のスケジュールだと思います。締め切り効果で集中ができたと思います。
私も曽我さんと同意見で、修学期間の短さで苦労しました。1.5年制の場合は初年度前期を主に講義の単位取得に注力することになるため、論文の執筆に集中できる期間は残りの10ヶ月程度になります。
論文を執筆する上で大事なことは何だと思いますか。
そのテーマに熱くなれる何かを見出せることだと思います。一般的に、税法論文は、納税者寄りか、課税当局寄りかのどちらかになるかと思います。私の場合は、ICAPが第三の中庸の姿勢をとっていることに強い魅力を感じました。このような思いが抱けると、大変でも前向きに取り組めるかと思います。
なるべく興味関心が高いテーマを選定することが大事だと思います。私は、過去の職務経験から重加算税をテーマに選びましたが、以前から深く追求したい論点であったため、最後まで高い熱量で取り組むことができました。
会計専門職大学院は修得単位数が多かったと思いますがどうでしたか。
本当に大変でした。単位を落とさないよう、平常点をとるための予習や、講義中の発言、レポート課題等に取り組んでいました。勤務後の講義に間に合うよう、タクシーに乗ることもありました。一方で、後からあの講義も履修したかったと思うようなときも多いのでワガママなものです。
本研究科の講義は、「考える会計学」をコンセプトにカリキュラムが組み立てられています。多様な講義を通じて会計・税務の基本知識に加え、実践的な応用力、いわば「考える力」を習得することができました。このようにして培った「考える力」は、論文執筆に大きく貢献しました。
大変だったこと、それをどう乗り切ったかを教えてください。
社会人は時間や体力の制約がある一方、知識や経験があります。また、社会人経験のおかげか素直さを持って講義や指導を受けたことが大きいと思います。
論文の執筆で行き詰まったことは多々ありましたが、定期的に行っていた大城先生との個別指導やゼミの時間で私が直面した課題を共有し、議論することで問題解決を図りました。
論文執筆と講義の両立はどうやって図りましたか。
両立は諦め、単位の取得を最優先に据えました。1年前期は先行研究の分析に留まっていました。代わりに夏休み期間にはやり方が分からないなりに書き進めていきました。1年後期の後の春休み期間には、少しづつ進め方が掴めてきました。
私は、論文執筆、講義、及び税理士試験の相続税法の並立を目指して取り組みました。具体的な工夫としては、午前中は税理士試験の学習、午後のうち3時間を論文執筆、1時間を講義の学習とするなど、1日の時間を区切ってルーティーン化することで、成果を残すことができました。
最後に、これから会計や税務の論文を執筆する後輩にメッセージをお願いします。
大学院入学のきっかけは、国家試験の一部科目免除だと思います。私も同じです。1年時の4月に租税資料館賞の論文を読んだときは、自分にはこんな論文を書けるとは思えませんでした。それだけに、自分が誇れる論文を書きあげたことに非常に充足感が得られました。
執筆中は苦しい時期が続きますが、着実に前進しているはずです。書き進めた文章を思い切り消すというときもあるかと思います。それすらも、完成に近づく一歩になります。また、私の場合、テーマが国際課税の領域であり、指導できる大城先生であったのも大きかったです。
論文は大学院の修学期間の全てを費やして執筆する集大成です。その過程で様々な壁にぶつかることはあると思います。会計プロフェッション研究科では、先生方をはじめとする論文執筆の万全なサポート体制、数多くの文献・資料が収容されている資料室、論文の執筆を集中して行うことができる学習室など、研究活動をするための環境が整えられています。困難に直面した時はこれらの環境を活用して乗り越えていっていただければと思います。皆様の学生生活が実りのあるものになりますことを祈念いたします。
本日は、お忙しい中ありがとうございました。また改めまして受賞おめでとうございました。
